日別アーカイブ: 2018年3月7日

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ーーー絶句。その一言だ。

ひらめくフリル、ふわふわと浮遊感のあるスカートから覗く生っ白い太もも、カチューシャに付けられた二本の長い耳………

キーンコーンカーンコーン…

キーンコーンカーンコーン…

 

Dance with a rubbit.

 

その小さな背中にはまだ不釣り合いに思える大きなランドセルを背負って、上手いこと転ばないようにケンケンパをしながら帰路につく子どもたち。

校門へと流れて行く彼らの波から外れて、校舎裏へと走る影が一つ。小学校時代の俺である。

そう、気付けば俺の意識は過去にタイムスリップしていた。

向かう先にはうさぎ小屋があって、小汚いうさぎ達が何羽飼われているのか、当時の俺には知る由もなかった。放課後になると係でもないのに、甲斐甲斐しく世話をする幼馴染…彼に会うのが目的だった。

「それ、いつも何してんの?」

「うさぎの鼻にねぇ、こうやって、少しだけツバつけてるんだよ」

「何で?ばっちくね?」

「これでぼくの匂いをおぼえてくれるんだ。仲間だって、安心したら、さわるのもいやがらなくなるよ」

「へえー、おまえものしりだな」

理屈もよく分からないままに褒めた俺に向かって、輝くような可憐な笑顔を向けてくれた天使のような彼…。

華奢で小さくてまるで女の子みたいだったのに、中学に入った頃からめきめきと身長が伸び、あっという間に俺を追い越して柔道部のムキムキエースになってしまった彼…。今では過去の片鱗も消え、立派な男(もう漢と言ってもおかしくない)に育ってしまった彼…。

そんな彼とダラダラと友人関係を続け、今では大学生になった彼とルームシェアをする俺…。

小学校時代から変わらず今もあるのは、友情と、俺の恋心のみ。

「こ、これは…、そ、その…」

永遠にも感じられる沈黙を断ち切って切り出された彼の精悍さすら感じる声(今は震えているが)に、意識は一瞬にして現在へ。

彼の姿を改めて見てみると、やはり見間違いでも幻覚でもない。ウサギのメイドさんだ。どこかのカフェで女の子が着ているようなサイズの物を無理やり着ているわけではない事だけは分かる。きっとそういうものがネットにはあるんだろう。ガタイの良い男向けの、そういったーーー…女装用の服が。

「わ、わりぃ、お前、今日はバイトだと思ってて…その、こないだ借りたDVD、今日が確か返却日だったから、えー…お前が忘れてるんなら返して来ようかと、ちょっと取りに入っただけで…」

しどろもどろになってしまう。声は上擦りどんどん早口に。そう、俺は別に何もやましい事があって今日、彼の自室に入ったわけではないのだ。本当にDVDを返してやろうかと、ただそれだけだったのにーーー

「…………」

絶句したままの大男は、その体躯に似合わず俺を怯えたような目で見つめている。

そうか、そうだよな。こんな状況、どんな事情だろうと彼が一番恥ずかしく、辛いに決まってる。俺がたじろいでる場合じゃないんだ。どんな姿になっても、どんな趣味があろうともーー俺の気持ちは変わらない。

そう思った次の瞬間には足が勝手に前へ進む。彼の目前へと詰め寄ると、高めの鼻梁のその先へ、舌先で軽くペロりと唾をつけた。

ガンッッーーー

「…いってぇ…!?」

目の前が真っ白になったと思ったら、視界のすぐ先にカーペットが。どうやら俺は、ウサギのメイドに殴られてぶっ倒れたらしい。

「…な、な、何だ…!?す、すまん…俺」

動揺降り積もるといった感じの彼の声が頭上から聞こえてくる。一体何が起きたか分からないようだ。俺も自分でも分かっていない。

「何で殴るんだよ!?」

「いきなりだったから…驚いて」

「いや驚いてんのこっちですけど!?」

ようやく凍り付いた空気が溶け始めたのが分かる。殴られたのも気にせず、会話を続けねばと口を動かす。

「何で舐めたんだ…!?」

「えぇーっと…お前がガキの頃、言ってたじゃん…鼻先に唾液つけたら、動物が懐くって。それで…その、俺は…お前がそういう、その、女装とかしてても、気にしてないよーというそういう意図で、安心をさせようかと…」

「……そんな事言ったか…?」

エッ覚えてないの?

ま、まぁ…言った本人は記憶にないとか、よくある話っちゃよくある話で…。でも俺それだと、ただいきなり舐めてきた変態みてぇじゃん!

「俺は…その、こういう格好をした方がお前が喜ぶのかと思って…」

「えっ…?」

「お前が言ったんだ!昔…俺の事を、”小さくて可愛くて大好きだよ”って!それで俺…どんどん体もデカくゴツくなるし…お前の趣味から外れてしまうような気がして。こういう格好でもしてみたら少しは可愛くなるのかと」

「………言ったっけ?」

「覚えてないのか!」

言った本人は覚えてないとか、よくある話で……

「別にそんな格好しなくたって、好きだ」

思った以上にスムーズに言葉が出た。

先程まで青ざめていた彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。どれだけ彼が変わっても、想いを消さなくて良かった。ガキの頃にすでに伝えていたというその言葉を、改めて伝えられて良かった。

「あ、でも」

「でも?」

「女装のお前も好きだ」

ガンッッ

「何で殴るんだよ!!!」

「恥ずかしい事を言うからだろ!」

…この巨体から繰り出される拳だけは、避けられるようにしなければ。

 

 


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