最近、朝大学へ行こうと家を出ると、門扉の近くで必ず見かける奴がいる。
軽くメンチを切ってみると、オドオドした様子で去っていく。前髪も長くてだっせぇリュックを背負っていて、よくいるオタクって感じの奴だ。
「あんたいつも俺んちの前で何してんの」
「あ……げ、げげゲームを…」
眼鏡の奥の瞳から怯えがなくなったと感じた頃、不意に会話を交わすようになった。
先に落ちたのは、
奴がやっているのは流行りのモンスターを集めたり戦わせたりするスマホゲーらしく、ゲームをやらない俺でも聞き覚えのあるくらい有名な物だった。流石にこの年では遊ばねぇが…なんとなく奴が楽しそうなのを見ていると、別にそんな趣味も有りかと不思議に思えたものだった。
「君も始めたら?レアな電気系モンスターを開始直後から入手出来る秘密の方法を教えるよ」
半袖から長袖に変わり、会話に慣れてきた奴は小難しい話し方をし、俺にやたらとゲームを勧めるようになった。いつしか朝に、奴と二言三言言葉を交わすのが俺の日常になっていた。
「…あっ!お前また勝手に部屋に入ったのか殺すぞ!」
帰宅して自室に入ると、最近よく俺の部屋に侵入しているらしき弟が人のベッドの上で毛布にくるまり、寝息を立てているのを発見した。テーブルに勝手に置かれていた茶はとっくに冷めている様子で、一体何時間ここに居たんだと声を荒げて目くじらをたてる。
「はいはい今出て行きますよ」
持参した様子の毛布を体に巻き付けたまま、ヤドカリのように出て行こうとする弟を呼び止める。
「お、前…このゲームやった事ある?」
「え?あれっ、兄貴がゲーム、しかもアプリゲーとかめっずらし。どったの」
「いや、…どうも俺に惚れてるっぽい奴がなぁ、このゲームをやたらとススめてくるもんだからよ…」
妙に声がデカくなる俺に、弟がぱちくりと目を瞬かせた後、一拍置いてから歓声を上げる。ようやく事態を理解したようだ。
「マジかよ!うえぇ物好き!知ってるも何も最近俺がずっとやってんの同じやつだよ。兄貴の部屋ってさぁ、家の中だとぎりスポットに入るからついつい常駐しちまってー!」
「………え…?」
遠くで、茶柱が折れるパキッという乾いた音が聞こえた気がした。


