なんとなく、あるよね。
友達同士でも奇数で集まると1人余る…とかさ。いつの間にか他の人たちが妙に仲良くなってたりして。ちょっとだけ、疎外感と言うか…ヤキモチに近いような事を…思ったり。
朝露を乗せた葉たちがきらめく茶畑がどんどんと後ろへ流れ行く景色を窓越しに眺めながら、そんな事を考えていた。
がたん、ごとん。がたん、ごとん。
電車特有の心地良い揺れと陽射しの暖かさに、微睡み閉じた瞼の裏に太樹(タイキ)と尋(ヒロ)の顔を浮かべる。
茶畑が延々と広がり、一番近くのコンビニへ行くのですら車で30分もかかるような秘境の村に僕達三人は生まれ育った。
ずっと…一緒だと思ったのになぁ。
高校を出たら家の農業を手伝うものだとばかり思っていたのに、あの2人は電車を何本も乗り継いで新幹線にも乗らなければ日が落ちるまでには辿り着けないような、都会の大学へ行ってしまった。…僕ひとりを残して。少しだけ感じる苛立ちに、眉根が寄ってしまう。
早朝に家を出たのにも関わらず、すっかり日も暮れた頃に僕は、2人が「るーむしぇあ」をしているというアパートに訪れた。
「うぉーこうちゃん!久しぶり!よく来たなー疲れただろ。とりあえず寛いで寛いで。飲み物持って来るから」
「こうちゃん来るって聞いて慌てて片付けたんだ。コタツへどうぞ?」
「ありがとう、2人とも。お構いなく。去年の冬に来てそれっきりだから…一年ぶりくらいにはなるのかな?あ、これお土産。今年も柿がなったから」
太樹は相変わらず元気で騒がしいし、尋は上品な雰囲気がカッコいい。促されるままにコタツに入ると、何やら2人はキッチンで準備をしてくれている。しばらく経って運ばれて来た飲み物に、僕は目を丸くする。
「あれ…たいちゃんお酒飲むの?」
「そうなんだよ。太樹の奴ハタチになった途端酒豪になってさぁ。酔っ払うと面倒臭いんだぜ?」
「ふーん」
「ウルセェなぁ。酒が1ミリも飲めないお子ちゃまになら何言われても平気だオレは。はい、尋はホットミルクなー」
太樹。尋。あだ名ではなく名前を呼び捨てし、ごく自然な流れでお互いの飲み物を用意し合う二人の様子に、心臓の辺りを針でチクりと刺されたような感覚を覚えた。そうか、もう二十歳も過ぎてるんだからお酒くらい飲むよね。大人だからあだ名なんか使わないんだ。
沈んだ気持ちに自分でも気付かないままに、当たり障りのない会話をする。そう、例えば実家の犬が逃げ出して隣町で発見されたとか、農作業はそれなりに楽しくやっているとか、そんなどうでもいい僕の話を二人はうんうんと聞いてくれる。
「あ、そろそろ」
「オッケー待ってろ」
「?」
「こうちゃんにサプライズ!二十歳のお祝いまだだったから、じゃーん!ケーキがあります!」
僕は今、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしているに違いない。目頭が熱くなり瞳に膜が張ると、それを誤魔化すように目をこする。
「エーッ何嬉し泣き?」
「ち、違うよゴミが入ったんだ」
「ふ、ティッシュいる?」
優しくて楽しいいつもの二人なのに、心のモヤモヤは大きくなるばかり。息が苦しい。
なんとなく、あるよね。
友達同士でも奇数で集まると1人余る…とかさ。いつの間にか他の人たちが妙に仲良くなってたりして。
ちょっとだけ、…ヤキモチに近いような事を…思ったり。
――僕は今、どちらに妬いてるんだろう。


