side 孝明
彼女と同棲中の部屋から追い出された俺は、
壁が薄いボロアパートでは階段を上がる音だけで来客が判断出来る
「何、孝明…また彼女と喧嘩?」
「うっせぇうっせぇ」
嫌な顔一つせず部屋に上げてくれるこいつは、
「で、今日はどしたの」
「これ」
部屋に上がった俺はベッドの縁を背に足を投げ出すようにしてカー
「えー、化粧ポーチなんて忘れてく女の子いるんだ」
「いやこれ絶対に冤罪なんだって。
「思うんだよなぁって何」
「金曜の夜の記憶が曖昧でさ…」
「孝明は馬鹿だよなぁ」
「うっせ」
俺が来る直前まで食っていたであろう蜜柑に手をつけて口に運びな
「ゼリー食べる?冷やしといたんだ」
「いつもの手作りの?食う。あれ美味い」
「おっけ、”いつでもあると思うなよ、友とゼリー”」
「”親と金”だし色々と違う」
中身のない会話もこいつとだと楽しい。本当にこの小さな箱が、
How to make a miniascape.
side —
よし出来上がり。あとは冷蔵庫で冷やすだけ。
きっと今日の夜には来るだろうから、十分間に合うかな。
ーーーカンカンカンカンッ
(こんな時間になるとは思わなかったけど、待ってて良かった)
二度目のノックを待たずにドアを開ける。
「何、孝明…また彼女と喧嘩?」
「うっせぇうっせぇ」
今度こそ別れて来るかと予想していたが、
「で、今日はどしたの」
「これ」
「えー、化粧ポーチなんて忘れてく女の子いるんだ」
しまった、中身を見てから言えば良かった。
「孝明は馬鹿だよなぁ」
「うっせ」
「ゼリー食べる?冷やしといたんだ」
偏食家の孝明が、やけに気に入っているあのゼリーを彼は、
「”親と金”だし色々違う」
愉快そうに笑う彼のいるこの小さな箱が、狭くて幸せな僕の箱庭。