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side 孝明

彼女と同棲中の部屋から追い出された俺は、そろそろ時計の針も天辺を回るというド深夜にも関わらず、当然のようにあいつの家のドアを叩く。

壁が薄いボロアパートでは階段を上がる音だけで来客が判断出来るのか、二度目のノックを許さず扉は開いた。

「何、孝明…また彼女と喧嘩?」

「うっせぇうっせぇ」

嫌な顔一つせず部屋に上げてくれるこいつは、社会人になってからも唯一繋がりのある高校の同級生。六畳一間の決して広くはないこの小さな箱の中でしか、最近俺は安らげていないのだ。

「で、今日はどしたの」

「これ」

部屋に上がった俺はベッドの縁を背に足を投げ出すようにしてカーペットの上に座り、まるで自分の家のように寛ぐ態勢を取る。そうそうと思い出したように鞄を漁り、小さな水玉模様のポーチを机の上にポイと投げ置く。

「えー、化粧ポーチなんて忘れてく女の子いるんだ」

「いやこれ絶対に冤罪なんだって。お前のだろって言ってもちげぇって言うんだけど、浮気相手のとかじゃねぇと思うんだよなぁ…」

「思うんだよなぁって何」

「金曜の夜の記憶が曖昧でさ…」

「孝明は馬鹿だよなぁ」

「うっせ」

俺が来る直前まで食っていたであろう蜜柑に手をつけて口に運びながら、ポーチをチラと見ると呆れ顔でそいつは言った。俺がどんなにクズでもこいつはなんだかんだ受け入れてくれるから心地いい。

「ゼリー食べる?冷やしといたんだ」

「いつもの手作りの?食う。あれ美味い」

「おっけ、”いつでもあると思うなよ、友とゼリー”」

「”親と金”だし色々と違う」

中身のない会話もこいつとだと楽しい。本当にこの小さな箱が、俺にとっての楽園になりつつある。

 

How to make a miniascape.

 

side —

よし出来上がり。あとは冷蔵庫で冷やすだけ。

きっと今日の夜には来るだろうから、十分間に合うかな。この何の面白みのない六畳一間も、気分が上がれば輝いて見える。

ーーーカンカンカンカンッ

(こんな時間になるとは思わなかったけど、待ってて良かった)

二度目のノックを待たずにドアを開ける。

「何、孝明…また彼女と喧嘩?」

「うっせぇうっせぇ」

今度こそ別れて来るかと予想していたが、どうやらそうでもないらしい。食べかけの蜜柑を口に放り込みながら、何気なく何気なく問い掛ける。

「で、今日はどしたの」

「これ」

「えー、化粧ポーチなんて忘れてく女の子いるんだ」

しまった、中身を見てから言えば良かった。そんな風に内心焦りを見せる僕に気付く様子のない彼は、呑気な顔で話を続けている。随分と平和な頭だよなぁ。まぁそこも好きなのだけど。

「孝明は馬鹿だよなぁ」

「うっせ」

「ゼリー食べる?冷やしといたんだ」

偏食家の孝明が、やけに気に入っているあのゼリーを彼は、いつでも僕が作り置きしていると思い込んでいるらしい。

「”親と金”だし色々違う」

愉快そうに笑う彼のいるこの小さな箱が、狭くて幸せな僕の箱庭。

 

 


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